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わすれな草、浮かれて

ショート9「鬼の居る間に」

鬼の時間になった。

人間界は、丑三つ時を、
迎えたばかりである。

待ってましたとばかりに、
その図体に反して、その鬼は、
身軽に、屋根を飛んでいる。

ポーン。
ポーン。

そして、最後の弧を描くと、
宙返りをして、地面に到達した。

「見事だね!」

その言葉と同時に、
パチパチと、手を打つ音がした。

「え?」

自慢げに、手を広げた格好の鬼は、
その手を、さっと下ろした。

鬼の前に居たのは、
まだ年端もいかぬ童であった。

「なんで、人間がいるんだ?
しかも、真夜中だぞ。何故、童が。。。」

「ボクにも分からないんだ。
それより、カカ様は何処にいったの?」

「え?」

同種としか話をしてこなかった鬼である。
疑問の海の中で、今にも溺れそうだ。

「ボク、迷子になったみたいで、
カカ様をずっと探しているけど、
ずっと見つからないの。
ボクが悪い子だから?
ずっと、このままボクだけ。。。」

既に、童の目は涙で塞がれている。

一方、鬼は、そこに立ち尽くし、
狼狽の花を咲かせている。

「こんな時、どうすればいいのだ!」
鬼の手の中には、その処方箋が無い。

ギィー。
ギィー。

その音が、静かに聞こえてきた。

闇夜に灯る、ほの明るい光を、
引き連れて、舟が近づいてきた。

ギィー。
ギィー。

韓紅(からくれない)の傘をさした、
女人らしき人間が乗っている。

一目で、それと分かると、
童は駆け出し、舟へと近づいていった。

「カカ様。。。」
ただ泣きじゃくるばかりの童。

その紅葉のような手を引き寄せると、
優しく抱きしめ、両の手で童の顔をおおった。

しばらくして、鬼の方に向かって、
舟の上から、軽く会釈をすると、
童を懐に抱いたまま、闇の中へと、
その舟は、消えていった。

ギィー。
ギィー。

鬼は、立ち尽くしたまま、
その音が無くなるまで、闇に耳を傾けていた。

「これは、夢なのか。。。」

人間の、時を告げる鳥の声。

鬼は、姿を消したようである。
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